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ライター山本千壽による雑文・写真・備忘録

【読書録】誘拐報道 読売新聞大阪社会部

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映画化されたのでご記憶にある人もいるかも。
主演の誘拐犯は萩原健一。その妻が小柳ルミ子
ショーケンが、自分の娘の友達を誘拐。
加害者側と被害者側の子供が友達だったことから、双方の家族に一層の悲劇が……という物語。
 
この映画では、主演のショーケンの鬼気迫りっぷりもさることながら、誘拐犯の娘を演じた高橋かおりの名子役ぶり、さらには誘拐犯の妻を演じた小柳ルミ子も見逃せない。
小柳ルミ子は本作でキネマ旬報助演女優賞と、日本アカデミー賞助演女優賞をダブルでゲット。女優業に弾みをつけ、翌年の日本アカデミー賞では「陽暉楼」の池上季実子、「楢山節考」の坂本スミ子(!)、田中裕子、夏目雅子を押さえて、堂々の最優秀主演女優賞を手にする。
 
本作はビデオ化まではされているものの、DVD、BDはスルーされたまま。
その理由は様々推理されているが、真相はどうなのかと思って、原作を読んでみた。
 
原作は、読売新聞大阪社会部が描いた、実際の誘拐報道の裏側本。
という体ではあるが、自戒を込めて文字に残した一冊でもあったりする。
 
自戒というのは、この読売新聞大阪社会部が、誘拐事件に際して結ばれた、報道協定を密かに破って取材活動をしていたということ。
これが災いして、読売新聞は短期間ではあるが記者クラブを除名になる。
 
でも問題は不名誉な除名うんぬんではない。もっと大きい問題がでてくる。
 
「報道協定があるからといって、何の取材活動もしないでは、ジャーナリストといえない!」
的に燃え上がった記者たちが、水面下で取材活動を繰り広げた。
「要は、犯人側に知られなければいいんだろ?」
と、犯人が目を向けない(であろう)、被害者周辺にも取材をかけた。
規制されていたのは、被害者宅の周辺、所轄の警察署周辺だけだったからだ。
被害者児童の学校に向かい、担任の証言をひきだした記者もいた。
 
こうした活動が功を奏し、報道解禁と同時に、読売新聞は他社とは比較にならぬ情報量を掲載した号外を配布。報道合戦を制する。
 
しかし、後で誘拐犯が被害者児童の同級生の父と聞き、関係者は冷や水を浴びせられる。
大丈夫とふんでいた学校側への取材が、下手をしたら犯人側へもバレかねない蛮行だったからだ。下手したら追いつめられた犯人が子供を手にかけていてもおかしくなかった(実際には大丈夫だったけど)。
 
いわゆるマスコミが第四の権力と呼ばれ、まだ現代ほどその権威が失墜していなかった時代の事件である。
もしこれが今の時代なら、新聞社への非難は壮絶を極めるだろうし、原作が映画化など企画も持ち上がらないだろうに。
 
というわけで、この映画作品がDVD/BDでよみがえると、読売新聞のコンプライアンスが、今更問われかねないという話。